セーラームーンミュージアムはキラキラ輝いていた [コラム001]
今月から毎月、所長の鳥居がコラムを書いていきます。まず最初に取り上げるべき題材はデザイン会社のコラムにふさわしくデザイン系の話からしようと考え、自分で考えたデザインについて話をしようと思ったのですが、自分が興味を持った世の中にあるモノやコトについて、自分の感想を話をする方が何らかしら自分の勉強にもなると思い、世の中にある物や出来事について取り上げることにしました。
記念すべきコラム第一回目は、わたしが最近気になっていた展覧会についてお話をしようと思います。弊社はちびまる子ちゃんランドの総合展示企画を担当させて頂いたこともあって、時々アニメや漫画などの展覧会を見に行くようにしています。そこで色々とネットを見ながら探していたら、とても凝っている展示として気になり、見に行きたいと思う展覧会がありました。2022年12月末まで六本木で開催されているセーラームーンミュージアムです。
おそらくデザイン会社のコラムで取り上げられることはほぼないと思われる題材で、わたしもセーラームーン自体になにか持論を展開するわけではなく、展示空間としてのコラムとして記していこうと思います。
もくじ
わたしは、セーラームーンを一度も見たことがなく、セーラームーンって「月に代わっておしおき」をするキャラクターという認識しかない中で、あえて予備知識をいれないで見に行ってみました。
当日は予約をして行ったにもかかわらず、建物からはみ出して並んでいる人たちがいて、私(と家族)たちもその列に並ぶことに。時間が経過してもなかなか進まない列に娘が苛立ちを感じつつも、外壁に大きく貼られている登場人物の青、赤、黄、緑のカラフルなイラストについて、娘と話をしつつ時間が経過していった。
やっと建物に入ったとおもいきや、天井から床面まである巨大な幕に描かれた主人公の月野うさぎが私達を上から見つめている空間で更に待つことに。展示室へは人数制限がされているようで、30分くらい待ったのち、やっと展示室に入ることができました。
シャッターを押す時間を演出に取り込みユーザーも参加して楽しく!
入った展示室は薄暗い空間で、登場人物達の武器である剣の実物大レプリカが展示しているだけでしたが、何人か入ったら扉が閉まって音楽がはじまり気分が高揚する。ここでかかる曲は私のような40代の人であれば一度は耳にしたことがあるであろう「ムーンライト伝説」だ。「ごめんね素直じゃなくって、、、」で始まり「ミラクルロマンス」で終わるあの歌だ。
これはなんだか懐かしさを倍増する演出だと感じました。ベタベタではあるが、1992年放送開始のオープニング曲を最初に持ってくるのは素直すぎてグッとくる効果を演出するのは間違いありません。
おそらくターゲットユーザーは私と同世代かもしくは少し下の世代であることは容易に推測がつき、実際周囲には当時現役で見ていた人とその子どもたちが多かった印象でした。
ムーンライト伝説が終わると、写真のように登場人物が大きくスクリーンに映しだされ、撮影できる時間が経過してから次の登場人物に切り替わっていく「写真を撮ること」が前提の演出でした。観客たちは気分が高まっているのでシャッターを押すスピードも速く感じられました。
以前、富野由悠季さんが著書「映像の原則」で映像には「時間的拘束」があると言っていましたが、この展示空間の演出では時間的拘束をシャッターを押すという時間にして、受け身で見るだけではなく、見る側にも撮影という動作を促すことで能動的な時間を生み出していることが上手な仕掛けだと思いました。
ミラーボールとホログラムでキラキラ感
最近の漫画の展覧会に行くと、ほぼ見られる演出として漫画のコマを切り取って壁面全体に散らばらせる手法がよく見られます。しかしセーラームーンは違います。それに加えてミラーボールとホログラムでキラキラさせちゃっています。これはユーザーが期待する世界観と一致する演出だと思います。
ホログラムの上に白のインクで印刷されていることから、とっても読みにくいものの至るところにキラキラが迫ってきて、非日常の空間を演出していてさらに気持ちを昂ぶらせている効果を出していました。
線や文字が切り抜かれているのもメチャクチャ手が込んでいることから、非常に力を入れた空間だったことが伺われます。
ピンク色の濃淡で世界が変わっていくセーラームーンの歴史
アニメの放映時期に合わせてタイトルが変わっているようで、それぞれのトピックとなるシーンを切り抜いたキャプチャ画像や絵コンテなどが壁面に印刷されて時系列に見ていくことができる展示でした。基本はピンク色で王道は外さない印象です。
アニメを見た人だったら、懐かしさを感じる展示空間だったと思うのですが、わたしは知識がなかったため残念ながら楽しむことができませんでした。ここで最初に登場人物の説明などがあればいいなと一瞬思ったのですが、そんなことは愚かなことだとすぐに理解しました。そもそもセーラームーンを知らない人が見に来ることを想定していないからです。知っている人が最高に盛り上がることができる演出をすることが、この空間では大切だということを認識するに至りました。
共有できる体験をつくる昔のグッズ展示コーナー
セーラームーンの歴史の部屋が礼儀正しく見る、まさに美術館の正統派スタイルであったのとは正反対に、グッズのコーナーでは多くのユーザーたちが「これ持ってた!」「欲しかったんだよね」という自分の思い出で会話が盛り上がるという美術館らしからぬ光景が広げられていました。前の空間とのコントラストが明確な展開は抑揚をもたらし、友達と一緒に見に来ている体験を強化してくれる空間でした。いまの言葉で言うと「共有」するための空間だと言えるでしょう。
グッズにはトレカみたいなものもあり、これは今も30年前も変わらない文化ですね。ゲームセンターに置いてあった機械のようなものも展示してあって、本体よりもお金を払う機械が時代を感じさせる一品です。ぜひ動いているところが見てみたい。
リアルなキラキラ感
セーラームーンが他のアニメと異なる点として、ミュージカルの存在があると思います。今もミュージカルは健在で毎年行われているようです。各時代のアイドルが登場人物を演じることで、常に新陳代謝が図られているとのこと。アニメの世界だけでなく、その時代の輝いているアイドルが演じることで、リアルにセーラームーンを体験できる仕掛けとしてミュージカルというのはよく考えたなと思いました。
物語だけの世界でなく、自分と同じリアルな空間でセーラームーンと一緒にいるというのは一番キラキラした体験で、だからこそ展示の終わりのあたりに持ってきたのかと思いました。赤いベルベットのカーテンにゴールドのスパンコールが施され、見た目にもキラキラと輝かせています。
月夜の中でさようなら
最後までキラキラ感を失うことなく疾走し続けたセーラームーンミュージアムも写真のコーナーで終わりを迎えます。待機スペースに飾られていた巨大幕の主人公には月は描かれていませんでしたが、最後の展示では満月とともにキラキラした何かを背景にさよならを言うかのように振り向いています。また逢いましょうと言わんばかりです。
床面は紫のカーペットになっていますが、これは今の時代のテイストを盛り込んでいるように見えました。かつてはピンクや赤が強調されたカラーリングが使われていましたが、今はパステル調のカラーが好まれている印象です。今のオシャレ感を表現したと言える配色と思いました。ターゲットユーザーが大人になってしまったからとも言えるかもしれません。
展示のシークエンスがしっかり考えられたキラキラコンセプトの空間
この展覧会を見に行ってみたいと思った動機は、紹介されていた画像がすべてキラキラしていたことでした。すべてという点がポイントで、言い換えると一貫した「キラキラ感」がそこにあるということです。わたしのような一度も美少女戦士セーラームーンのアニメや漫画を読んだことがないユーザーでも、キラキラ感を感じることができたことは強い意志を感じさせます。しかもいろいろな手法を使ってキラキラ感を演出していたことで、さながら「キラキラ感」の博覧会のような印象を与え、ひとつのキーワードを軸にした表現の多様さを感じることができました。
セーラームーンミュージアムはデザイン・設計という面から見た場合でも、じっくり練られた空間構成でしたので、2022年12月末までに行く機会がありましたら、空間を体験することをオススメしたい展覧会でした。(トリイデザイン研究所 鳥居)
著者について
鳥居 斉 (とりい ただし)
1975年長崎生まれ。京都工芸繊維大学卒業、東京大学大学院修士課程修了、東京大学大学院博士課程単位取得退学。人間とモノとの関係性を重視した、製品の企画やデザイン・設計と、広報、営業などのサポートの業務を行っています。
2013年から株式会社トリイデザイン研究所代表取締役。芝浦工業大学デザイン工学部、東洋大学福祉社会デザイン学部非常勤講師。
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コラムでは製品を開発する上では切り離せない、経済学や社会学など、デザイナーの仕事とは関係なさそうなお話を取り上げています。しかし、経済学や社会学のお話は、デザインする商品は人が買ったり使ったりするという点では、深く関係していて、買ったり使ったりする動機などを考えた人々の論考はアイデアを整理したりするうえでとってもヒントになります。
また、私の理解が間違っている箇所がありましたら、教えていただけると嬉しいです。デザインで困ったことがありましたらぜひご相談ください。
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