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2024.03.29

スティグリッツ『プログレッシブ キャピタリズム』を読む [コラム010]

プログレッシブキャピタリズム

記念すべきコラム第10回目は、アメリカのノーベル経済学賞を受賞した経済学者のジョセフ・スティグリッツの『プログレッシブ キャピタリズム』(山田美明訳・東洋経済新報社2020)について書きたいと思います。

7回目のコラムでガルブレイスの『ゆたかな社会』を取り上げたときに、経済学者の根井雅弘さんの『今こそ読みたいガルブレイス』(集英社インターナショナル2021)を参考図書として読んだのですが、「スティグリッツ、ピケティ、そしてガルブレイス」という箇所で本書を取り上げていて、過去のコラムで取り上げたピケティもガルブレイスも似ていた点もあったため、改めてスティグリッツも読んでみようと思いました。

ところでこの本は「今のアメリカの格差社会は問題だから、そんな状況になった原因を説明して、さらに解決方法も提案するよ、それが進歩的社会主義(Progressive Capitalism)だよ。」という内容だと考えてもらっていいと思います。なので、この本を読むと現在のアメリカが抱えているおおよその経済的な課題を知ることができます。

今回のコラムでは、すべて説明すると長くなってしまうのと本を読む楽しみがなくなってしまうので、前半部分の「問題の原因の説明」の部分に絞り込んで、できるだけわかりやすく解説していきたいと思います。その前にスティグリッツさんの基本的な考え方を見ていきましょう。

スティグリッツさんの基本的な考え方

スティグリッツの基本的な考え方

「まえがき」でスティグリッツさんの提案のよりどころになる現在のアメリカの経済学の考え方について説明しています。ここは重要なので抑えておきたいです。ここで説明されている9点の内容がスティグリッツさんの主な主張です。

個人的にはどれも現代に生きる人としての基礎情報にしても良いと思うくらいですが、
市場に任せたら滅茶苦茶になること
格差は最終的には得しないこと
所得の分配と再分配は両方考える必要があること
貿易の保護主義や移民排斥は合理的でないこと
全体を調停する役割を政府がすること
などがわかりやすい主張かと思います。

この本は9点の主張を盛り込んで話を展開していくから、できるだけ9つの項目を覚えておくと理解しやすくなります。それでは次に、スティグリッツさんがこの本で伝えたかったことについて見ていきましょう。

この本の目的と構成

この本の目的
この本の目的

スティグリッツさんはまえがきで、「国の富を生み出しているものが何かを明らかにしたのちに、利益を公平に分配するにはどうすればいいか」を解説している本だと言っています。

なぜ最初に国富の話からはじまるのでしょうか?
最近のアメリカは格差が広がっていて、富の分配が偏っていることから、分配する「富そのもの」について最初に見ていこうということです。

近年は「利己的で実利的な考え」をもつ人が多くなり、一部の人々に富が集中してて、「集められる利益は自分のものにする」というのが最終ゴールになっている傾向が強まってるから、ここで一度立ち止まって「そもそも富というのは一体何のためのものなのか」、そして「富を生み出すものが何なのか?」を改めて整理してみようという意図があってのことだと思います。

そして、2番目の「偏っている富の分配を公平にする」ための第2部では、帯にも書いているように「万人を豊かにする進歩的資本主義」を実現するための方法を読者に伝えることが目的となります。

この本は大きく2つにわかれる
この本の構成

構成は目的の2つの項目別に、第1部と第2部に分かれています。第一部の「迷走する資本主義」では、

●市場支配力の増大
●グローバル化の失敗
●過剰な金融化
●新たなテクノロジーの問題

などの「アメリカの現在の問題の原因」と考えられる代表的な事象を取り上げ、後半の第2部では、「政治と経済を再建するため」のスティグリッツさんの提案を説明しています。

第1部「迷走する資本主義」の7つの項目

プログレッシブキャピタリズムの前半の内容

レーガン大統領の時代を皮切りに、冷戦でアメリカが勝利を収めてから、アメリカで一部の富裕層が有利になるような社会が作り上げられたことにより、社会が分断してしまったと言っています。

そして、何がその分断を大きくしていったのかを解説しているのが第1部です。7章に分けられていて、おおよそ図のような構成の話となっています。

目的でも宣言していたように、最初はまず「国の富」が一体何なのか?を改めて整理するところからはじまります。

そもそも国の富とはなにか?

「国の富」というと、やはりアダム・スミス(1723-1790)の「国富論」(1776年)を思い出します。スティグリッツも、スミスが重商主義を批判していたところから、国の富がなにかを説明しています。

国の富とはなにか?
国の富とはなにか?

スティグリッツは、重商主義がただの「ゴールドを貯め込むことが豊かになる」という『国富論』でのスミスの批判を取り上げたのちに、真の国富は「全国民に高い生活水準を持続的に提供するためのもの」であると書いています。

どうしても国富というと、GDPだのをイメージしてしまいがちですが、「お金をたくさん持っている」ことが目的なのではなく、「国民が高い生活水準を維持する」ためのものだと考えた方が納得できます。

国の富を生み出すもの
国の富を生み出すもの

国富が何かが理解できましたが、それらを実現するためのものは、

1.国民の生産力・創造力・活力
2.科学・テクノロジーの進歩
3.経済・政治・社会組織の発展


だと言っています。

つまり、「みんなが生産し、考えて、頑張る」ことができて、「科学やテクノロジーの研究開発」ができる環境をつくり出すような「経済や政治や社会組織」が存在する必要があると言っています。そしてそのような世界が過去2世紀半の間にはあったんだけど、今は消滅しつつあります。

日本でも基礎研究に対して不寛容な発言をしたりする人もいて、「役に立たないものを研究してどうするんだ!」など。知り合いの研究者などで、期限付きの研究員の立場でいろいろな大学や研究施設を回っている人もいたりする話を聞くと、社会からの理解が得られていないと感じるときもあります。

アメリカの経済成長は虚像だった

ここで2枚のグラフを見てください。1枚目はアメリカのGDPの推移です。1960年からずっと右肩上がりで上がっています。2枚目は失業率の推移です。GDPは上がり続けているのに失業率は上がったり下がったりを繰り返しています。

アメリカのGDPの推移
アメリカのGDPの推移(1960-2022)
World Bank national accounts data, and OECD National Accounts data files.
アメリカの失業率の推移
アメリカの失業率の推移(1960-2024)
U.S. Bureau of Labor Statistics, Unemployment Rate [UNRATE], retrieved from FRED, Federal Reserve Bank of St. Louis

GDPのグラフで二箇所だけ下がっているところに注目してみます。「リーマンショック」と「新型コロナウイルス」のタイミングです。GDPは少ししか減少していないのに、失業率はグンと上がっているということを確認できます。GDPが上向きだからといって失業率は常に低下傾向でないことがわかり、GDPと実体経済って関係ないように見えます。GDPは国の経済を表現している指標だと思っていました。

上位1%と下位50%の所得の推移

次はアメリカの上位1%と下位50%の人の所得の推移を見ます。青色が上位1%で、赤色は下位50%の所得の推移です。上位1%の人の所得は1980年を境にぐんぐんと伸びていますが、下位50%の人の所得はずっと同じです。あれ、アメリカのGDPって右肩上がりじゃなかったっけ?

ここからわかるように、GDPで伸びている分は、上位1%の人の利益になっていると推測できそうです。ほとんどの人にとっては所得は変わっていないことがわかります。

盛んに吹聴されていた成長は、第二次世界大戦後の数十年に比べれば、はるかにペースが遅かった。それ以上に憂慮すべき事実もわかった。その成長により生まれた富は、最上層にいる少数の人々の手に渡っていた。ほかの人の所得は停滞しているのに、ジェフ・ベゾスら富豪の所得が増えたからGDPが増えたのなら、経済が成功しているとは言えない。

プログレッシブキャピタリズム P75

GDPが上昇しているのに多くの国民の所得は変わっていないということは、さきほどの「国の富」の定義からすると、多くの国民にとって国富は増えていないこととなり、高い生活水準も維持できていないことがわかります。つまるところ、アメリカの経済成長というのは見かけ上のもので、虚像でしかなかったと言えるでしょう。

トリクルダウン理論?
トリクルダウン理論という幻想

アメリカでは、大企業を優先する制度などを政府が作っていく傾向が強いようですが、その場合の根拠として、「大企業の利益が上がっていったら、中小企業や個人も利益にさずかることができる」というトリクルダウンという言い方がなされるようです。

しかし、実際はトリクルダウンは幻想でしかなかった。大企業は利益を得たら配分する傾向は少なく、自分のところで溜め込む傾向があります。これって、アダム・スミスが批判していた「重商主義」の構造になっているように思います。

大企業に有利な政策でトリクルダウン?

1980年代あたりから「トリクルダウンが起こるから!」と国民たちに説明して経済緩和等の政策を行うようになっていったが、いつまで経ってもトリクルダウンの恩恵は受けることができないまま続いていました。次第に大企業は過去最高益などを言うようになって、GDPも右肩上がりになってて、「どうなってるんだろう?」と思っていたら実は、「富裕層や大企業がしこたま貯めてただけ」なことが判明。これではスティグリッツの言う「真の国富」を実現することなど到底できなさそうです。

[アメリカの問題の原因] 市場支配力の増大

市場支配力が強くなると一部の大企業が独占状態になるので、競争がなくなり大企業が欲しいだけ利益を得ることができる社会となる。ここでは、市場支配力について説明します。

市場支配力とは?
市場支配力とはどのような能力なのか?

市場支配力とはそもそのどのような能力なのか、それを図に示してみました。

1)高い販売価格を設定できる
2)安い賃金を設定できる
3)自社に有利な政策を要求できる
4)裁判で有利な判決を要求できる
5)特許期間を延長できる


などの、現代の民主主義の思想とは相反する項目が羅列されています。

高い販売価格と安い賃金を組み合わせると、利益を最大化することができます。しかも、余剰利益を使って政府にロビー活動を行い、自社に有利な政策を実施できたり、裁判で有利な判決を出してもらったり、競争をさせないために特許期間を延長させたりすることが可能となります。後半に関しては犯罪だと私は思いますが。

市場支配力をもつためには?
市場支配力を持つためには?

企業は利益を最大化することをメインコンセプトにしているので、会社員であれば、多くの方は利益を最大化するための案を考えさせられたりするシーンがあると思います。図はそのときによく出てくるストーリーかもしれません。

最初は「イノベーションを作る」ところからスタートです。昔「新しいウェブサービス」のUIデザインの依頼があって、その会社は同じシステムを使って「複数の見た目と名称が異なるサービス」を立ち上げて、「その中から当たりが出ればいい」という考え方をしていて、複数の中の1つのサイトのデザインをしたことがあったことを思い出します。「イノベーションとはなんだろう?」と思った記憶があります。

次の「最初は低価格で提供する」ですが、かつて「フリーミアム」という言葉があり、「ネットサービスは最初は無料で提供することが必須」という話を思い出しました。今では多くのサービスの標準となっている仕組みですね。「合併と買収で規模を大きくする」では、M&Aという言葉が舞台の主人公になりそうです。弊社でさえもM&A営業が来るほど一般的になりました。まあ、彼らの目的は手数料での利益だと思いますが。

競争を支持しない人々

イノベーション→フリーミアム→M&Aで段階的に外堀を埋めていって、外堀が完成したら、競争を行わせないように「いろいろと行動に出る」というのが基本的な流れかと思います。PayPal創業者のピーター・ティール(1967-)は「競争は負け犬がするものだ」と言っています。

まるで市場支配力を持つための指南をしているように見える説明ですが、裏を返すと、このようなことをすると、度が過ぎてしまえば、社会を不安定化させる可能性があるということに注意しないといけないと思ったので書いておきました。

賃金を低く抑えるための施策の例
大企業のさまざまな活動の例

大企業の超過利潤を獲得するためのさまざまな施策の例として「賃金を低く抑える施策」について解説します。

2011年に6万4613人のシステムエンジニアがアップル、グーグル、インテル、アドビのハイテク4社を相手に、「互いに人材を引き抜くことを禁止して賃金抑制を共謀したとして起こされた集団訴訟」を起こしました。

ハイテク4社は、賃金抑制のために協議して引き抜きを禁止する取り決めをしていたとのことですが、これは違法行為になります。コンプライアンスという言葉は何処へいったのでしょう。スティグリッツは他にも様々な活動例を紹介していますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

アダム・スミスの見えざる手
「見えざる手」はなぜ見えないのか?

自由市場の信奉者は、アダム・スミスの「見えざる手」があるから、市場に任せておけば大丈夫!という説得をしていたが、スミスは「同業者が集まれば、それがたとえ遊興や娯楽を目的としていたとしても、必ず大衆に対する謀議や価格を上げる計略の話になる」と警告もしていて、その当時からカルテルは発生するという話をしています。

市場に任せておけば製品やサービスの生産を効率的に管理できるという思想が、これまで深い影響を及ぼしてきた。それが資本主義の理論的基盤とされてきた。だが2世紀にわたる研究の結果、私たちはようやく、アダム・スミスの言う「見えざる手」がなぜ見えないのかを理解した。そんなものは存在しないからだ。

プログレッシブキャピタリズム P130

200年に渡る研究の結果、「見えざる手」が存在しないことが判明しました。なので市場を支配しようとする会社が思いのままに動いてしまい、社会が不安定になってきていることもわかりました。そうすると、社会をうまくまとめる規制が必要になり、それは政府しかできないとスティグリッツさんは結論づけています。

[アメリカの問題の原因] グローバル化の失敗

グローバル化の雇用と賃金への影響
グローバル化の弊害1:雇用と賃金への影響

もっともわかりやすい例として、「高い技術が不要」「多くの人手が必要」な製品を輸入した場合は、国内で製造されなくなるから、もともと製造に関わっていた未熟練労働者の賃金が減少するか、賃金が減少しなければ失業者が増える例を上げています。

これはどの国でも起こることで、ある種構造的に回避できない話だと思いました。

アメリカの企業が海外で製造する理由
グローバル化の弊害2:企業が得する貿易協定

アメリカの企業は「本国の労働者の交渉力を弱らせる」ために、「海外の安価な労働力を手に入れやすい」貿易協定を政府に要求し、そのとおりになった。

こんなことをしたら、本国の労働者が会社に賃上げ要求したら、会社から「そんなことを言うなら海外で製造するぞ!」と言えてしまうようになってしまいます。なんだか滅茶苦茶な気がします。

海外に拠点がある企業の税金の問題
グローバル化の弊害3:法人税の問題

アメリカの大企業は海外の拠点に関する法人税は、海外だけで法人税を払えばいいルールにしました。しかし、そんなことをするとアメリカ本国の法人税は減ってしまいます。

さらに、大企業は政府に対して「法人税を下げないと海外に拠点を移すぞ!」と脅しをかけることもできるようになりました。

現に、共和党は2017年に法人税率を35%から21%に削減したとのことです。

共和党は、外国に負けないようにアメリカも法人税を引き下げなければならないと主張し、2017年に法人税率を35%から21%に削減した。2001年および2003年のキャピタルゲイン課税や配当税の減税のときにも、同様な主張をしている。しかしこれまでの減税は効果はなく、貯蓄や労働供給量の増加、成長率の向上には結びつかなかった。2017年の減税でこうした効果が期待できる根拠はなにもない。むしろ減税の結果、10年後のアメリカ人の所得が下がる可能性の方が高い。

プログレッシブキャピタリズム P141

ここまで来ると、アメリカの貿易協定は自虐的なストーリーになっていると思わざるを得ない印象です。ここまで大企業に有利にしてもトリクルダウンは幻想でしかないので、辛い感じがします。

[アメリカの問題の原因] 過剰な金融化

2008年の金融危機以後の銀行の悪事
金融産業が社会に与える損害

アメリカの銀行は結構悪さをするようで、2016年にアメリカ3位の銀行ウェルズ・ファーゴは、当人の同意もなく153万の個人口座を開設して、勝手にクレジットカードも作って、おまけに手数料まで要求していたりする。

日本でもかんぽ生命保険が18万件の契約で「保険金の支払拒否」や「保険料の二重払い」などで、顧客の財産を守るより、顧客の財産を搾り取るようなことをやっていました。

誠実で信頼できるというのは過去の遺物
「誠実で信頼できる」というのは過去の遺物

ゴールドマン・サックスの前CEOのロイド・ブランクファイン(1954-)は「誠実で信頼できるという評判はかつては銀行のもっとも重要な資産としてみなされてきたが、いまではもう古くさい過去の遺物」だと言っています。

スティグリッツは例として、自社では空売りを仕掛けた商品を投資家に販売しているという例を取り上げ、背反行為も甚だしいと思います。

ブランクファインの言葉は、銀行家は信用を大切にすべきだという考え方に終止符を打った。その言葉は事実上、銀行家を信じる者はばかだと告げている。

プログレッシブキャピタリズム P166

空売りの件は、ヘッジファンドが以前よくやった手法らしく、2021年にGameStop株を狙って空売りを仕掛けていた「メルビン・キャピタル」をやっつけるために、ネット掲示板に集まった小口の投資家たちがこぞって買いまくった「ダム・マネー」という映画が最近やっていました。買いは下限があるけど、売りは上限がないから効果はテキメンだっと思います。

銀行の本来の業務
銀行の本来の仕事は?

ここで原点に立ち戻って、銀行の本来の仕事について改めて確認しておきましょう。銀行は「余剰資金を持つ人」「資金を必要としている人」との間を取り持つ業務をするのが仕事でした。

「原始的な農業経済では、種の余った人が、隣の人に種を分け与えていた」というように、昔から仲介というのがありました。

本来の銀行の仕事は、将来のための貯蓄を人を守ったり、企業が新しい事業を起こしたりするときに資金を提供することで、社会を安定化させて、国富を増大させることだということを確認しました。しかし、現在の銀行は利益を高めたいという理由から、企業への融資はあまり行わなかったり、カネのギャンブルを提案したり、市場支配力を高める支援をしたり、税金をなるべく払わなくて済む支援をするような業務を行うようになって、本来の業務からズレた「カネにまつわる仕事」をやるようになってきました。それでは次は、スティグリッツが紹介している「進化した銀行業務」の中から「クレジットカード」「金融ギャンブル」「合併・買収」「租税回避の支援」の4つ紹介したいと思います。

進化した銀行業務1:クレジットカード
進化した銀行業務1:クレジットカード

銀行は、当初は企業への融資が中心だったが、次第に「クレジットカード」を使った融資に業務をシフトしていく。

同じ融資をするなら、企業よりも消費者のほうが搾取しやすい。中小企業に融資するより消費者に融資するほうが、楽に多くの利益をあげられる。

プログレッシブキャピタリズム P168

クレジットカードはあらゆる方面から高い手数料を取れるので、普通にお金を貸すより効率的だととらえられるようになった。

2022年度のイオンの営業利益構成比
2022年のイオンの営業利益構成比
イオン公式サイト「財務・業績情報」より

ここで2022年度のイオンの営業利益構成比のグラフを見てみましょう。イオンはスーパーマーケットやイオンモールなどを展開している小売事業の会社ですが、いろいろな事業をやっている中で、最も稼いでいるのは利益の3割を占める「総合金融事業」です。これはイオンカードなどのクレジットカードのことです。

スーパーマーケットなどの事業は1割程度しか稼いでおらず、メインの利益は金融です。イオンモールなどの店舗はクレジットカードを利用させるための舞台と言っても過言ではないでしょう。

なので、ひとめでは銀行に見えない企業もクレジットカードを利益の柱にしている状況です。

進化した銀行業務2:金融ギャンブル
進化した銀行業務2:金融ギャンブル

銀行はデリバティブCDSなどを投資家に販売しています。本文でも書かれていますが、「ラスベガスでは単に『賭け』と呼ばれているものが、ウォール街では金融業界らしい名前を付けられ」たものです。

スロットマシンの賭けと違う点は、賭ける金額が大規模になるという点です。さらに危険度が高まる印象を受けます。ハイリスク・ハイリターンを地で行く感じでしょうか。

しかも、銀行などの金融機関は損失を出しても補填してくれます。2008年の金融危機のときにアメリカ政府はAIGに1800億ドル(約18兆円)の救済をしています。

CDSに関しては、以前のコラムでちょっと解説しているので、気になる方は参照ください。
市場支配力を持つと、ギャンブルに負けても政府が助けてくれます。このときは国民はおおよそ放置されました。国富の定義が「全国民に高い生活水準を持続的に提供するためのもの」だったことはすっかり忘れられています。

進化した銀行業務3:合併と買収
進化した銀行業務3:合併・買収

銀行は、企業の合併や買収を支援する業務も行っています。最初は企業の成長を支援するという要望から生まれたと思うのですが、今は大企業と大企業の合併になると、手数料も巨額になるので、積極的に支援していると思います。

しかし、大企業を巨大化しても「トリクルダウンは幻想」だったので、私たちの生活が向上することとは関係がないので、GDPは増えたとしても、国の富が増えることもない。

進化した銀行業務4:租税回避の支援
アップルの租税回避スキーム
アップル、アイルランド使った節税
事実上の「二重非課税」(日本経済新聞)参考
進化した銀行業務4:租税回避の支援

「多国籍企業や富裕層が支払うべき税金を支払わなくても済むように支援する」お仕事です。

どうもいろいろなスキームがあるようで、説明を見ていても貿易のルールの知識がないと理解できない内容でしたので、解説はできませんが、例としてアップルが行った租税回避を紹介します。アイルランドに子会社(Apple Sales International)を作って、その会社が利益を得ているようにして、別の子会社(Apple Operations International)に配当を渡して、、、のように色々とお金を移動させて、なんとか法人税を5%くらいにするらしいです。

この図を見ると、アップルはまるでアイルランドの会社のようです。

租税回避は、アップルだけでなく、スターバックス、グーグル、IBM、アマゾン、マイクロソフトなどもしっかりやっています。

これは専門家でないとわからないので、このようなスキームを銀行が考えてくれるということでしょう。なかなか、銀行はいろいろなお仕事がありそうです。ただ、いずれも国富を増大させてくれる気がしません。

金銭欲があらゆる悪の根源というわけではないが、金融産業がアメリカの多くの病弊の根源であることは間違いない。金銭のことばかり考える銀行家に見られる近視眼的思考やモラルの崩壊が、経済や政治や社会に広まり、それらを毒している。その結果、アメリカ人はさまざまな点で変わった。実利的になり、利己的になり、近視眼的になった。

プログレッシブキャピタリズム P178

銀行家達のモラルが低下してきて「儲かればなんでもいい!」という流れになってきてるけど、金融産業自体が重要であることは変わらず、

事業を開始・拡大したり雇用を創出したりするには、資金がいる。金融は決定的に重要だ。(中略)銀行の本来の仕事とは、経済成長に必要な投資をしようとする企業に対し、妥当な条件で資金を提供することだ。(中略) 金融産業が本来の仕事を行うようにしていかなければならない。

プログレッシブキャピタリズム P180

「余剰資金を持つ人」と「資金を必要とする人」の仲介を行って、国富を豊かにするという銀行の本来の姿に戻ってほしいものです。

おわりに

今回のコラムでは、「国の富」を再確認したのちに、現代のアメリカ国民が苦しんでいる主な原因となっている「市場支配力の増大」「グローバル化の失敗」「過剰な金融化」の3点について紹介しました。

スティグリッツはアメリカの話をしていましたが、改めて考えてみると、これは日本でも同じような構造になってきてるんじゃないか?と思います。先日Yahooニュースを見ていましたら大企業では「大幅賃上げ」が相次いでいるのに…雇用者の7割を占める中小企業の給与が上がらない根本原因という記事があり、賃上げは「大企業は利益や内部留保金などを活用した。」と書かれています。それでは中小企業はどうかというとなんとか実施したが、大企業からのコスト低減の要請は強いようで、「バブル崩壊後の景気低迷の中でコストカットが当たり前になったこともあり、多少のコストは自助努力で対応してほしいという、ある種の暗黙の要請は強いといえる。」と書かれています。大企業は売上や利益が上がっているのに、いまだ30年前の「バブル崩壊後の景気低迷」の話を説得材料にして「市場支配力」を行使している印象を受けてしまいます。

働いている人からすると「利益を最大化するための施策」を必死にやっているだけで、その行為が「市場支配力を行使している」という認識は低い、もしくは全くないと思いますが、落ち着いて全体を見るとこのままだと格差が拡大していって、社会の治安も悪化していくことは容易に推測できます。さらに、IT化が進んでいって「人間の行う仕事が減る」のは確実で将来的には社会は不安定になりそうです。

ブガッティの飛行機
富裕層向けのブガッティのプライベート飛行機
映画『エリジウム』第1弾予告編より

映画「21世紀の資本」でも登場した「エリジウム」という映画を先日見たのですが、地球で生きる貧民層と宇宙に浮かぶスペースコロニー「エリジウム」で生活する富裕層の話で、地上ではドロイドと呼ばれるロボットに管理されて生活する人間の姿が描かれていました。主人公はロボットを作る工場で働くという設定もまるでロボットに奉仕している感じがします。SF映画なはずなのに、なんだかこの本を読んだ後に見ると、リアルに感じてしまいました。

アメリカの現在の課題である「市場支配力の増大」「グローバル化の失敗」「過剰な金融化」を解決するにはどうすれば良いかですが、「見えざる手」は存在しなかったので、全体的に交通整理をする仕組みが必要で、それが実現できるのは政府しかないとスティグリッツさんは言います。市場支配力に支配された社会に慣れきった政治家や私たちの考えを変えていって、「全国民に高い生活水準を持続的に提供するための」国富を実現できるとエリジウムで描かれた世界を回避できる気もします。ぜひ一度読んでみてほしい一冊です。(トリイデザイン研究所 鳥居)

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