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2024.03.03

ベル・ゲデスとシド・ミード-未来を描いたデザイナー[コラム008]

bel geddes & syd mead

コラム第8回目は、「未来を考えるデザイナー」をテーマにして、ノーマン・ベル・ゲデス(1893-1958)と、シド・ミード(1933-2019)という二人のデザイナーを紹介したいと思います。5回目のコラム「インダストリアル・デザインの歴史」で紹介したデザイナーとは一線を画すデザイナーですが、わたしたちが現在目にする「未来っぽい」デザインを作る人は、この2人のどちらかの影響は必ず受けているはずです。

シド・ミードについて

シド・ミードはご存知の方も多いと思います。ただ、工業デザイナーとして認知度があるというより、SF映画のセットや小道具のデザイナーとして有名だと思います。シド・ミードを一躍有名なものにしたのは映画「ブレードランナー」です。ブレードランナーに登場する風景や、乗り物などのデザインはシド・ミードのデザインです。

ノーマン・ベル・ゲデスについて

それに対してベル・ゲデスは100年前に活躍したデザイナーなので、知らない方が多いと思いますが、個人的には100年前のシド・ミードという印象を受けるデザイナーで、今回一緒に紹介したいと思いました。共通しているのは、ともに「ぶっ飛んでいる」ことと「乗り物」のデザインが特徴的なこと、そしてどちらも実現を前提にしたデザインでないことです。

未来を描くデザイナー:わくわく・ドキドキさせる表現方法

ベル・ゲデスもシド・ミードも「未来を描くデザイナー」として知られており、シド・ミードは自ら”VISUAL FUTURIST”という肩書を名乗るくらい、未来を目に見えるカタチで描くことを意識しています。個人的に両者に共通しているのは、表現方法が「ワクワク・ドキドキ」させる点だと考えます。

ノーマン・ベル・ゲデスとシド・ミード
エンターテインメントの表現が得意

ベル・ゲデスは、舞台美術デザイナー出身のプロダクトデザイナーで、シド・ミードは、フォードのインハウスデザイナー出身の、映画のセットデザイナーという経歴を持ち、ともに共通しているのが、エンターテインメントを目的としている点です。なので、ユーザーの興味を惹かせたり、楽しませたり、意図を伝えることがとっても得意なところがポイントだと思っています。

シド・ミード展 PROGRESSIONS TYO 2019にて 
シド・ミード展 PROGRESSIONS TYO 2019より
映像や画像を前提とした表現

シド・ミードについては、アクリルや水彩画のビジュアルが未来感を高めていて、映像になっても迫力がある世界を繰り広げています。

実際に映像で使ったモックアップの写真などをみると、おもちゃのようで、やはり表現の力強さが印象を強めていると感じます。図の乗り物のホイールのメッキ表現とタイヤのゴムの表現はリアル感が強く、形状の未来感を説得力あるものとしています。

YAMATO2520
シド・ミード展 PROGRESSIONS TYO 2019より
YAMATO2520 宇宙戦艦ヤマトの断面図
単なるスタイリングではなく形状の合理性を考慮するがゆえに工業デザイナーと言われる

表現の強さというのが2人を忘れられない存在にしているのは間違いないですが、2人が工業デザイナーと言われるのは、単に未来の表現だけをゴリゴリ推し進めているのではなく、機械としての合理性を考慮した設計のプロダクトを作ろうとしていることが説得力を増していて、単なるイラストレーターではない点です。

左図は、シド・ミードによる宇宙戦艦ヤマトのYAMATO2520の断面図ですが、映像には表現されないところまで設計して、たとえアニメであっても齟齬が生じないようにするという点にも現れています。

[ベル・ゲデス] 舞台デザイナーからはじまる

Geddes designing the Macy's CHristmas Parade Punch and Judy float
Geddes designing the Macy’s Christmas Parade Punch and Judy float (1926)
NORMAN BEL GEDDES DESIGNS AMERCA 2012

ベル・ゲデスは、クリーブランド美術大学とシカゴ美術館でちょっとだけ学んだのちに、1916年にロサンゼルスで舞台セットのデザイナーとして働きはじめ、1918年からはニューヨークのメトロポリタン歌劇場で舞台セットのデザインを担当し、1925年にロサンゼルスに戻って、ハリウッド映画や劇場の舞台デザインを行っていました。

1927年にGraham-Paige Motorsのレイ・グラハムから勧められて自分のデザインスタジオを開設し、流線型自動車(Aerodynamic Motor Cars)のデザイン開発をスタートしたのが工業デザイナーとしての始まりでした。

[ベル・ゲデス] 流線型-StreamLine

Graham-page concept car
Norman Bel Geddes
(HistoryofID • Matthew Bird)より
グラハムページ社のコンセプトカー(1927)

グラハムページ社の流線型自動車”Aerodynamic Motor Cars”のデザインは6つの提案がありましたが、1929年の世界大恐慌で開発は頓挫してしまいます。ベル・ゲデスはエンジンを後ろにして後ろから押し出す方が合理的と考え、運転席を前にして、後ろ側は絞ったティアドロップ型(涙の粒)の形状を考えていました。バックミンスター・フラーダイマクションカー(1933)も構成は同じようでしたが、スタイリングを考慮する点では、ベル・ゲデスの方が美しいと個人的には思います。

ベル・ゲデスは、1932年の著書「Horizons」で、人間は臆病だからこのような新しいデザインのクルマは作られないだろうし、購入する人もいない的なことを話しています。ただ、デザインとしては頭でっかちで、顔がおばけみたいなので、このクルマで知り合いが来ると笑ってしまいそうな感じがしないこともありません。かつてFIATで販売していたムルティプラが来たときの衝撃に近いかもしれません。

ちなみに、Horizons(1932)はインターネットアーカイブで閲覧できるので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

airliner Number4
Norman Bel Geddes
(HistoryofID • Matthew Bird)より
Airliner Number 4(1929) : 9階建ての飛行機

この飛行機は1940年には飛行機はどうなっているのか?という考えを示すために1929年から1932年に、ベル・ゲデスとオットー・コラーによって提案されました。Airliner Number 4は、9階建ての水陸両用の飛行機で、大西洋横断客船に代わるものとして想定されました。

翼の内部はホテルのような部屋割りで、ホールや食堂、ゲームセンターなどがあったりしていたようです。(詳細はこちらの記事参照)エンジンは20基で、巡航時は12基を用い離陸時に20基を使います。ちなみに計画ではシカゴーロンドン間で42時間とのことでした。2024年現在は8時間弱。客船みたいな飛行機といえばエアバスのA380がありますが、飛行機の形としては、ストラトローンチを思い出しました。順番が逆ですが。

[ベル・ゲデス] ガスコンロ(1932):掃除を楽にするためのデザイン

SGE Acorn Stove,Norman Bel Geddes
Norman Bel Geddes
(HistoryofID • Matthew Bird)より

ベル・ゲデスの実現したデザインの紹介をしたいと思います。過激に見えるスタイルが目立つのがベル・ゲデスの作風と感じる人も多いと思いますが、このStandard Gas Equipment社のガスコンロは、当時珍しかった、主婦へのインタビュー調査から仕様を決めたデザインでした。当時の女性の悩みは、ガスコンロの掃除が難しいということで、

1)表面をフラットにする
2)角を丸くする
3)足元まで覆い尽くす

(当時は脚がついている製品が多かった)
4)コンロの扉を閉じると火が消える

という女性の悩みを解決するための仕様にして、画像を身てもわかるとおり、段差も少ないフラットサーフェイスデザインで、足元も巾木を設けることで、ゴミが溜まりにくくなったデザインとしています。さらに、それまではパネルを構造体としていたので重量が嵩んでいましたが、構造体と外装パネルを別にして、外装パネルを薄くすることで軽量化を実現したとのことです。コンロの扉は閉じると火が消えるような仕組みになっているようです。

このような製品を見ると、ベル・ゲデスが単なる奇抜なデザインをするデザイナーではなく、工業デザイナー・プロダクトデザイナーとして真っ当なデザイン手法を取っていることがわかります。

[ベル・ゲデス] フューチャラマ(1939):ニューヨーク万博GM館のデザイン

Futurama(1939)
Norman Bel Geddes
(HistoryofID • Matthew Bird)より

1939年に開催されたニューヨーク万博のGM館として建設されたのが”Futurama”です。設計はベル・ゲデスとアルバート・カーンと言われていますが、詳細は不明(こちらの記事に記載)とのことですが、外観もとても美しく、ペデストリアンデッキで構成されている外部空間も2024年の現在に作られたといってもおかしくないくらいです。

しかし、フューチャラマの一番の目玉は、内部の展示で、1960年のアメリカの近未来の理想社会を巨大模型で展示したアトラクションです。

フューチャラマの詳しい解説をしている動画があったので、ぜひご覧いただきたいのですが、3200㎡の面積に渡る1960年のアメリカの交通を描いた巨大模型で、5万台のクルマの模型(そのうち1 万台は動く)、50万個の建物、100万本の樹木で模型は作られたとのことです。さらにその模型を見るのは2階の「キャリーゴーランド」と呼ばれる動く椅子で、来場者はキャリーゴーランドに乗って、近未来のアメリカの交通システムを見るというアトラクションでした。スケールが飛び抜けていて、このようなアトラクションがあるなら、万博って行ってみたいと思ったりしました。

ノーマン・ベル・ゲデスは、他にも色々と面白いデザインをしていますので、今回私が主に参照したYoutubeの動画を貼っておきます。

個人的には代表作を網羅したと思いますが、変な形の列車や船などもあります。100年前の世界とは思えないくらい斬新なデザインをすると私は思いました。次はシド・ミードについて解説します。

[シド・ミード] フォードのインハウスデザイナーからはじまる

Future Rolls-Royce 1967
Future Rolls-Royce 1967
(注:フォード時代のレンダリングではありません)

シド・ミードは1959年にカリフォルニアのアートセンター・スクールを卒業しフォードに入社します。コンセプトカーの担当などをして1961年にイラストレーターになるため退職し、USスチールなどのカタログのイラストの仕事をしますが、1970年にオランダのフィリップスからの仕事のためにデトロイトでシド・ミード社を設立します。

[シド・ミード] フィリップスの未来のデザインを考える

Syd Mead’s 1970 design for a wall-size holographic TV for Philips Electronics
a wall-size holographic TV(1970)
Syd Mead/DistantMirrors より

フィリップスでは、TVやキッチン、家の中のオーディオなどの未来のあり方などのビジュアルを作成していたようです。この時期は1/3の時間をヨーロッパで過ごすなど、フィリップスの仕事を中心に活動していたものの、アメリカでのコンピューターゲームなどのデザインの仕事や、1979年には映画「スター・トレック」の惑星連邦の最新鋭科学船「ヴォイジャー」のデザインを行うことで、映画界との繋がりを持つようになり、アメリカの映画の仕事が増えていきます。

フィリップス向けのデザインをこのサイトで見ることができますが、やはり光や色使い、モニターなどを配置したデザインは今見ても「これぞ未来!」って感じがします。

[シド・ミード] ブレードランナー

ブレードランナースケッチ
ブレードランナーのレンダリング
The Movie Art: VISUAL FUTURIST SYD MEADより

映画「ブレードランナー」の監督であるリドリー・スコットがミードの個人画集の中の「雨の降る高速道路の情景」を見て映画に登場する車両のデザインを依頼するが、ミードは「工業製品は、それが使用される状況や環境とセットでデザインされなければならない」という考えを持っていたこともあり、スコットは車両以外のデザインも依頼することになったようです。

ブレードランナーの舞台は「環境汚染にまみれた酸性雨の降りしきる、退廃的な近未来の大都市」として描かれた2019年のロサンゼルスで、前回のコラムで取り上げたガルブレイス「ゆたかな社会」の「自動車はきれいだけど街はきたない」の世界を進化させて目に見えるようにしたようです。

個人的にはブレードランナーといえば、「強力わかもと」のイメージが強く、暗くてなんだか日本か中国かどちらか分からない空間が、どうしてロサンゼルスであるのかという点が謎な映画ですが、ビジュアルとしては、カラフルな色で明るい未来を描いていたミードが、どんよりした色の暗い未来を描くことで、自身のキャリアを躍進させた点が面白いと思いました。

お話に関しては、レプリカントというアンドロイドに感情が芽生え、人間に反乱を起こし、それを倒す「ブレードランナー」と呼ばれる警察との物語で、ハリソン・フォード演じる主人公のデッカードがレイチェルというレプリカントに恋をしてしまいます。細かい話は見ていただきたいのですが、岡田斗司夫さんがオタク的に解釈すると「オタクは2次元の嫁と夢を見るか?」という面白いことを言っていました。ブレードランナーの原作であるフィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢をみるか?」に掛けていて、2次元の嫁=アンドロイド=レプリカントは、感情を持たず、紙や画面やプラスチックのフィギュアでしかないんだけど、「雑に扱うと自分の霊が汚れる」というように、ただのモノでしかないものに感情を抱いてしまうという点についてお話されていて、なるほど!という感じでした。

[シド・ミード] スピナーのデザイン:空飛ぶクルマのディテール

SPINNER

主人公のデッカードが乗る空飛ぶクルマ「ポリス・スピナー」というのが登場します。タイヤが付いているので自動車のように見えますが、wikipediaの説明によれば、

地上を走行することができるだけではなく、垂直に離着陸することができ、垂直離着陸機と同様のジェット推進装置を使用して浮上し、そのまま空中を飛行することができる。

wikipedia ブレードランナー スピナー

とのことで、これがまたカッコいい。

スピナーに関しては詳しい説明を岡田斗司夫さんがYouTUBEで「スピナーの工業製品としてのリアルさ」という解説していて、面白かったのでポイントを挙げておきます。

1)反重力でなくジェットエンジンで動く重航空機であること
2) 垂直離陸・着陸をするので、安全面を考えて床下に窓がついている
3)あと、床面に下向きにライトがついている

などの説明をしています。実際には存在しないんだけど、工業デザイナーだから、リアルなディテールを求めると言っています。映画に登場する乗り物をこんなに真剣に解説しているのを見ると清々しく感じてしまいました。それはシド・ミードのデザインへの愛が感じられるほどで、素敵なことだと思いました。

おわりに

今回は「未来を考えるデザイナー」をテーマに、ノーマン・ベル・ゲデスとシド・ミードを紹介しました。私の中ではふたりとも同じカテゴリーに入るデザイナーだと思っていたので、2人を一緒に紹介している記事があると思っていましたが、なかったので書いてみようと思いました。

両者ともに「ぶっ飛んだスタイリング」をしていますが、「本来、◯◯は合理的に考えると□□のような形になる」という点を真剣に考えている点で共通しているということを、記事を書いたあとにも改めて感じました。このように考えるデザイナーは他にもいると思いますが、2人が傑出しているのは、そのプレゼンテーション方法だと思います。ベル・ゲデスは模型で、シド・ミードは水彩画という武器で攻めていき、ともに過剰であり、サービス精神旺盛である点が他に右に出るものがいない存在にしていると感じました。「デザイナーは基本的にはエンターティナー」である点をよく理解している人物です。

そして、形(FORM)には無限の可能性があり、その無限の可能性を探求するというデザイナーの仕事に勇気を与える2人に敬意を表して終わりにしたいと思います。(トリイデザイン研究所 鳥居)